あたしのお気に入りの席に、男の人が座っていた。
黒髪で、目付きが鋭くて、犬歯が特徴的なスーツを身に纏った男の人。歳は二十代後半くらいだろうか。
あたしは仕方なく、二つ隣の席へと腰を下ろす。
お客さん、珍しいな。
ついつい、視線が男の人へと向かってしまう。
うわっ。
この人、見た目に似合わずチョコレートケーキ3つも注文してる……!
「おい、何見てんだよ?」
「へっ、あ、えっ、ご、ごめんなさいっ!」
き、気付かれてしまった!
ばくばくと心臓が早鐘を鳴らす。
「俺が見た目に似合わずチョコレートケーキ3つも注文してる、とでも思ったのか?」
「そ、そんなこと……」
思ってたけど。
だって、男の人って甘いもの苦手だとばかり……
「こーれ、アズマ。セツナちゃん苛めるんじゃないぞ」
「へいへい」
店の奥からおじさんがカレーを運んできた。
大盛りのそれはあたしの目の前にドンッと置かれた。
しまった。
これじゃ、あたしが大盛りのカレーライスを食べるってこの男の人にバレちゃう……!
「へー。小柄な体型に似合わずカレー大盛り、ねぇ」
「アズマ!」
「へいへい」
ニヤりと犬歯を覗かせて笑う男の人をおじさんが注意する。
あたしは思わず、恥ずかしさで熱を帯びた頬を右手で押さえた。
「すまないねぇ、セツナちゃん。これはここの常連の如月アズマ。口は悪いが根は優しいやつなんだ。許してやっておくれ」
「一言多い」
