転校しないで済む範囲に麻紀達が引っ越してくるわけにもいかなかった。

狭い町で、それこそいい人の噂のタネになってしまう。



(ああ〜…)


こういうことをぐじゃぐじゃ考えるのが、大の苦手の麻紀は頭痛がしてきた。


明日は雲海のテラスを見る予定だ。


朝4時起きして、ケーブルカーに乗り、山の頂上まで登り、そこに設置されたテラスから、眼下に広がる雲のカーペットのような光景を見るのだ。


それは、日の出とあいまって神々しく、素晴らしく神秘的なものであるらしい。


雲海のテラスは夏にしか見られない上、気象条件により見られないことも珍しくない。
観光客にとっては、運みたいなものだ。


幸いなことに明日は晴れで、ほぼ見られるとの予測がホテルのロビーに告知板が出ていた。



「この勝負が終わったら、もう寝よう。明日は雲海のテラスに行くんだよ。早起きしなきゃいけないからね?」


麻紀が言うと、少し眠くなってきた雄哉が麻紀の首根っこに腕を廻し、縋り付いてきた。


「僕、今日、ママと寝たい…ママ大好きだから」


雄哉の言葉に麻紀は、泣きそうになる。ぐっと鼻が詰まった。