清志は、今年春に支社ビルに異動になった。

入社以来、現場で頑張ってきたのに、慣れない電子システムを使用した事務仕事で何度か発注ミスを繰り返してしまい、会社に損害を与えてしまった。


今までの実績が評価されていたから、始末書を書かされただけで済んだが、自分のふがいなさに清志は落ち込んでいた。


「ま〜命まで取られるわけじゃないし!健康だったら、いいじゃない!」


麻紀が持ち前の能天気さで清志を励まし、どんと背中を叩く。


人にとことん気を使うタイプの清志は、麻紀のバカ力に身体を揺らされ、暗い表情ながらも、「そうだね…」と力なく笑う。



しかし、身体は誤魔化せなかった。



38歳の麻紀は、出来れば、清志の子供を生みたかった。


清志に父親になる喜びを与えてやりたかった。


清志は、あまり積極的に子供を欲しがらない。かといって、否定もしない。

麻紀に子供がいるのを気にしているのかもしれない。


優しい性格の男だ。

もし、子供を授かれば可愛がり、いい父親になるだろう。


既に3人の育児経験のあるベテランママの麻紀は、健康なら赤ん坊など多少ほったらかしてもなんとかなるものだと知っている。