ある時。

葉子は自ら車を運転し、麻紀の後を尾行したーーーこれは決定的だった。


「ククッ…」


思わずハンドルに顔を埋め、葉子は笑ってしまった。


メタリックピンクの麻紀の軽は一軒のいかがわしいホテルの駐車場ののれんをくぐり、消えたのだから。



姑に尾行されているなんて夢にも思わず、麻紀は清志との逢瀬にめり込む。


夫が夜勤で不在の日、子供達を寝かしつけたあと、11時過ぎに車で家を出る。


30分ほど山の方角に走り、トンネルをくぐった峠道の脇に、ラブホテルが数軒、建ち並ぶ場所がある。


その中の一軒[白い恋人]というホテルが麻紀と清志の密会場所だ。


なぜここなのかというと、1番安いからだ。

少し古いけれど、贅沢言っている場合ではない。

清志だって安月給なのだから。



麻紀が駐車場に車を入れると大抵清志は大抵、もう来ていて自分の車の中で麻紀を待っている。


独り者なのに、清志の車は7人乗りの黒いワゴン車だ。


ホテル代は清志が払う。

清志は会社の独身寮に入っているから、麻紀を連れて帰れない。