出逢ったことは、始まり。
始まりの終わり。
そして、終わりの始まり。
暗い夜道に足音が響く。
――遅くなっちゃったなぁ…
友人たちとの飲み会を終えて、家路に就く頃にはもう日付も変わっていた。
大学がある方向とは逆の、いつもは通らない街灯の少ない暗い暗い道。
――なんか、気味悪い…
道に迷ったわけではないが、見慣れない風景と道のせいで不安感が湧いてくる。
コツ…。
不意に後ろから足音が聞こえ、綾はびくりと肩を揺らした。
コツ、コツ、とゆっくりと近付いてくる足音に、振り返ることすら恐くて、綾は思わず駆け出す。
「…う、そ…っ」
走り出した綾を追いかけて、背後の足音も速くなる。
どんどん距離を縮め、息遣いまで聞こえそうなほど近付いてくる。
――やだ、こわい…!
追い付かれる、と思った瞬間。
「うわっ!?」
驚いたような声に振り返ると同時にバサバサッと羽音が聞こえてきた。
黒い翼を持った何かが、綾を追いかけていた男の頭上を飛び回り、その翼で頭や顔を叩いていた。
「なに…?っきゃ!?」
突然闇の中から腕を捕まれた綾は短く悲鳴を上げる。
ぐい、と引っ張るひんやりと冷たい手はどこか覚えがあって、綾はその手の主を見上げる。
「た、たかせさん…っ?」
「…こっち」
黒い何かに襲われている男を一瞥して、高瀬は綾の手を掴んだまま歩き出す。
「…このへん、痴漢多いんだ」
「…」
綾は掴まれている手を握り返す。
震えが止まらない手を堪えるように、ぎゅっと力を込めて。
一歩前を歩いて綾の手を引いていた高瀬が振り返る。
「…大丈夫?」
「…」
「…とりあえず美波さんのマンション、すぐそこだから」
俯いたまま返事をしない綾の手を引いて歩き続ける。
「もう大丈夫だよ」
「…、たかせ、さぁん…っ」
小さく声を上げて泣き出した綾に戸惑いながらも、高瀬は手を離さないまま、綾の歩調に合わせてゆっくり歩き続けた。
***
「なに?どうしたの?」
「痴漢に襲われかけてたから、連れてきた」
美波が玄関のドアを開けると、綾の手を引いた高瀬が立っていた。
抱き付いてきた綾に驚いている美波は高瀬を見上げる。
気にした風もなく、高瀬は慣れた様子で勝手に部屋へと上がっていく。
「落ち着くまで休ませてやって」
「それは構わないけど…なんで?」
あの時、綾の記憶から高瀬の存在は消されたはずなのに。
美波の疑問に、高瀬は困ったように首を横に振る。
「高瀬さんが助けてくれたの…」
目元を真っ赤にして、また泣き出しそうな綾が美波から離れながらそう言った。
始まりの終わり。
そして、終わりの始まり。
暗い夜道に足音が響く。
――遅くなっちゃったなぁ…
友人たちとの飲み会を終えて、家路に就く頃にはもう日付も変わっていた。
大学がある方向とは逆の、いつもは通らない街灯の少ない暗い暗い道。
――なんか、気味悪い…
道に迷ったわけではないが、見慣れない風景と道のせいで不安感が湧いてくる。
コツ…。
不意に後ろから足音が聞こえ、綾はびくりと肩を揺らした。
コツ、コツ、とゆっくりと近付いてくる足音に、振り返ることすら恐くて、綾は思わず駆け出す。
「…う、そ…っ」
走り出した綾を追いかけて、背後の足音も速くなる。
どんどん距離を縮め、息遣いまで聞こえそうなほど近付いてくる。
――やだ、こわい…!
追い付かれる、と思った瞬間。
「うわっ!?」
驚いたような声に振り返ると同時にバサバサッと羽音が聞こえてきた。
黒い翼を持った何かが、綾を追いかけていた男の頭上を飛び回り、その翼で頭や顔を叩いていた。
「なに…?っきゃ!?」
突然闇の中から腕を捕まれた綾は短く悲鳴を上げる。
ぐい、と引っ張るひんやりと冷たい手はどこか覚えがあって、綾はその手の主を見上げる。
「た、たかせさん…っ?」
「…こっち」
黒い何かに襲われている男を一瞥して、高瀬は綾の手を掴んだまま歩き出す。
「…このへん、痴漢多いんだ」
「…」
綾は掴まれている手を握り返す。
震えが止まらない手を堪えるように、ぎゅっと力を込めて。
一歩前を歩いて綾の手を引いていた高瀬が振り返る。
「…大丈夫?」
「…」
「…とりあえず美波さんのマンション、すぐそこだから」
俯いたまま返事をしない綾の手を引いて歩き続ける。
「もう大丈夫だよ」
「…、たかせ、さぁん…っ」
小さく声を上げて泣き出した綾に戸惑いながらも、高瀬は手を離さないまま、綾の歩調に合わせてゆっくり歩き続けた。
***
「なに?どうしたの?」
「痴漢に襲われかけてたから、連れてきた」
美波が玄関のドアを開けると、綾の手を引いた高瀬が立っていた。
抱き付いてきた綾に驚いている美波は高瀬を見上げる。
気にした風もなく、高瀬は慣れた様子で勝手に部屋へと上がっていく。
「落ち着くまで休ませてやって」
「それは構わないけど…なんで?」
あの時、綾の記憶から高瀬の存在は消されたはずなのに。
美波の疑問に、高瀬は困ったように首を横に振る。
「高瀬さんが助けてくれたの…」
目元を真っ赤にして、また泣き出しそうな綾が美波から離れながらそう言った。