もう少しだけ、あなたのそばに


そのまま、キッチンにいる私の所まで歩いてくると、私を後ろから抱きしめた。


「花憐。ごめん。嫌な思いさせた。」


先ほどまでの彼女に対する冷たい声とは違い、不安そうな声。


「あの、・・・私のことは、大丈夫です。それより、あの、いいんですか?」


「うん?」


「あの、あの人。」


「花憐は気にすることない。もう、二度とここには来ないから。」


「で、でも・・・・」


「花憐。約束して。」



私を抱きしめる秋の腕の力が強くなる。



「ここから出て行こうなんて考えるな。」




・・・・・・・・・・どうして、わかるの?




「花憐。絶対に許さないから。・・・・・・・逃げてもかならず捕まえるから。」



それは、嬉しい言葉なのか、怖い言葉なのか。


そのときの私にはなんの感情もなかったように感じる。


ただ、秋を苦しめたくないという思いだけ。


「あの、私、今すぐに出てけって言われても困ります。私には今、ここしか居場所がないから。」


「花憐・・・・・」


「さあ、離してください。夕飯の準備しますね。」


ニッコリ笑う私を見て、秋の腕の力が緩む。

その隙に秋の腕の中から抜け出して夕食の準備を始めた。