【姫央♀side】



流、ちょっと速いよ!



追いつかないじゃんか!



「……あ」

「ぎゃふっ…!?」



あたしが今、一生懸命追いつこうとしていたのに、流は急に足を止めた。



流の背中にぶつけた鼻の頭をさすりながら、あたしは顔を上げる。



「…急になによぉ」

「日本に帰ってお前に会ったら、一番に渡そうと思ってたけど、忘れてた」



流は背中を向けたままそう言うと、制服のポケットに手を突っ込んだ。



「……?」



そして振り返り、ポカンとするあたしを見下ろす。



「手出せよ」



手?



あたしはわけも分からないまま、右手を差し出す。



「………」

「…な、なによ」



手を見るなり、明らかに眉間にシワを寄せる流。



「アホか。左手に決まってんだろ」



いやいやいや!



決まってないでしょ。