「流、コーヒー」



土曜の夜、出発前日。



夕飯の後、姫央はマグカップに入ったコーヒーを差し出す。



「ん」



普通に受け取ろうとしたのに。



「あ」



手と手が触れた。



「あ…」



俺の脳は、コイツに触れてはいけないという考えに洗脳されているため、反射的にも手を引っ込めてしまった。



「………。」



…やべえ。



うつ向いたまま、姫央は何も言わなくなってしまった。



泣かしたか…?



「……流ヘン」



グサ…(痛)



「…あたしのこと、避けてるし」

「…別に避けてねーよ」

「じゃあなんで今、手引っ込めたの」

「………。」

「……もういい…」



涙目になりながらマグカップを机に置き、姫央は部屋を出ていった。



俺はため息をつきながら、その場にしゃがみ込む。



……やっちまった。



バカだよな。



最後の最後まで、なに泣かせてんだよ。