社長息子と恋をするなんて、簡単な事じゃないんだ。
それくらい分かってた。
流は体を少し離して、あたしを見る。
「もう我慢の限界?」
少し笑って、あたしの頬の涙の筋を親指でなぞる。
「……うっさい」
我慢なんて、出来っこないよ。
我慢したって、アンタは遠くに行っちゃうんだから。
だったら我慢なんてしなくていいじゃん。
…って、今までのあたしなら言ってたんだろうな。
「……はぁ」
流は両手をあたしの頬にもってきて、親指で涙を拭う。
「こんな泣き虫置いて、行きたくねぇ…」
「……っ…」
困ったように笑うと、もう一度あたしを腕の中に閉じ込めた。
こんなにも温かくて落ち着くこの場所は、誰にも譲りたくない。
あたし、決めた。
強くいよう。

