その後は、毎日部活に行かずにそのまま帰ることになって、帰り際に一人でサッカー部の練習を眺めるのが日課になった。

***

怪我をして一週間くらい。その日の織本君の様子がちょっと変だった。
曖昧な返事しか返さないし、ぼーっとしている。部活のことかなと見当をつけたけど、結局聞けなかった。


いつものようにサッカー部を覗きに行く。

ぼーっと、グラウンドを眺めていると、

「杏樹?どうかした?」

振り向くと郁馬がいた。きょとんと不思議そうにしている。

「いや、最近よく来てるなって。足怪我したんだろ」

「あぁ、うん。ちょっと眺めたいな…って」

「ふぅん」

ちょっと誤魔化したが、郁馬は気づいていないようだった。

「あっ、そうだ」

ふと郁馬が声を上げた。

「杏樹さ、晃太が最近元気ない理由知ってる?」

「えっ、サッカー部のことじゃなかったんだ」

思わず驚く。郁馬は、知らないかぁ、とため息をついた。

「部活とかでも、ぼーっとしててさ。なんかハキハキしてないんだけど、聞いても何もないって」

もしかしたら、妙ちゃんと関係あるのかも。

「うーんと、私は知らないんだけど、知ってそうな人に聞いてみようか?」

「あっ、それ助かる!」

顔をパッと明るくした。

「じゃあ、よろしく。僕これから部活だから」

走り去る郁馬に手を振りながら、本当にどうしたんだろうと内心首をかしげた。

次の日。こういう時に限って妙ちゃんがなかなかつかまらない。

妙ちゃんに話しかけられるタイミングができたのは、お昼休みだった。


廊下を歩く妙ちゃんを追う。

「妙ちゃん」

話しかけながら肩を叩く。

妙ちゃんは一瞬不愉快そうな顔をして振り向いたが、私だとわかると、嘘だったかのように笑顔になった。

「どうかしたの?」

少し違和感があったけど、続けた。

「織本君、最近元気ないよね?何か知ってる?」

すると、一瞬でさっきの顔に戻った。

「杏樹ちゃんに関係無いでしょ」

豹変ぶりに驚きながらも、

「サッカー部の友達に頼まれたの。口割らないらしくって」

納得してくれたのか、でも表情はそのままで、口を開いた。

「別れた、私たち。そういう事」

それじゃあ。立ち去ろうとした妙ちゃんの肩を、頭でも理解しないまま反射で掴んだ。

わ・か・れ・た?

「なんで?」

無意識のうちに妙ちゃんに詰め寄る。

「うっさいなぁ」

くるりと振り向いて、肩にかけた手を振り払おうとする。ただ、がっちり掴んでいたので、できなかったけれど。

「あんたになんか関係あんの?」

前に見せていた可愛らしい表情から一変して、憎々しげな顔をつきだした。

変わりように戦きながらも反論する。

「私にラブレター渡させたじゃない。十分関係あるでしょ」

ちっ、妙ちゃんが舌打ちをする。これがあの妙ちゃん?

「桜田君は手が届かないでしょ。だから顔も性格的にも程々にいい織本君狙おうと思ったわけ。そうしたら、あんたが織本君と仲いいじゃない。だから、離すために渡させたの。それだけ」

語られた内容に衝撃をうける。そういう風に考えてたの、妙ちゃん?

「だけど、付き合い始めたら全然つまんない男子じゃない。そりゃあよく気づくけど。だから捨てたの」

もういいでしょ、離してよ!荒っぽく言いながら思い切り手を振り払い、走り去っていった。

ポツン、私は取り残される。捨てた?えっ、じゃあ織本君は?