早く終わらせるために今まで無視していた、着信を知らせるメロディーとランプ。
 ようやく手に出来たのは十時半を過ぎていた。


「もしもし」
『おつかれ、もういいの?』
「うん、やっと終わったから」
『これからだと、居酒屋とかになるかな?』
「ふふ、そうだね。久々だからもっと良いところに行きたかったけど、私のせいだもんね」
『しかたないよ』


 ぽつりぽつりと、他愛ない話をした。
 それから、二人で行ったことのある店をいくつかあげて、その中でも私の家に近い場所にしようということになった。


「じゃあ、また」


 後で、といいかけた所で彼が今までとは違う声で、私を呼んだ。


『葉月、』
「ん、何?」


 そのことをあまり深く考えずに軽い気持ちで聞き返した私。
 そんな私に彼が言った言葉が、あまりに当たり前でけれどどこか切迫感を帯びていて、笑いで流してしまった。