「いいじゃない少しくらいー。」
「やめっ…!お願いだから止めて…。」
愛から腕を組むように引っ張られる。
む、胸が当たってるんだけど!
女同士とはいえ、
学校でそういうのはちょっと止めて欲しいって言ってるんだけどな…。
そう思いながらも渋々とついて行く。
なんとなく視線を感じて周りを見ると心なしか恨めしそうな顔をした男子達が。
「か、帰っていい?」
「これからいいところなんだからもうちょっと待って?」
「うえっ!?わ、分かった。」
お願い!と上目使いで頼まれ、ついつい頷いた。
わー!私の馬鹿馬鹿!!
これじゃ離してくれるまで逃げられない。
下校途中の生徒から視線を受けながら
はあ…とため息をついた。
私、崎波あお。
只今親友の北村愛に、訳も分からずついて来ているのであります。
「ついたよ。」
野球部…?
カキーンッと青空に吸い込まれていくように白い野球ボールがあがった。
「こんなところに何の用が…。」
「ふっふっふっ。逃げちゃ駄目よ?」
「逃げないって…。」
愛はお嬢様育ちで、柔道合気道なんかもお手の物だ。
有段者にがっちり掴まれたらそう簡単に逃げられないって。
相変わらず腕は離してくれないらしい。
「あの馬鹿居るかなー?ちょっと聞いてくるね。」
「誰を?って…もう居ない!?は、早い…。」
私の親友の愛は学校で知らない人はいないくらい有名人。
ホントかどうかは知らない風の噂だけど、ファンクラブなんてものもあるらしい。
すると背後から風を切る音が聞こえた。
「危ない!!」
「え」
その声に振り返るとボールがもう近くまで来ていたらしい。
絶対避けられない!
パンッという音がして反射的に目を開けた。
「……。」
あれ、ボール…。
ミットでキャッチしたらしい。
顔を上げると申し訳なさそうな顔をした人が居た。
「あのっすみません!ホントすみません!!」
いきなり頭を下げられ、ビクッとする。
「大丈夫だから…その…頭上げて…。」
どうしたらいいのか分からず、しどろもどろになってしまう。
愛!どこに居るの?!
人見知りの激しい私はとにかく心の中で叫んでいた。
「ホントに…?怪我は?」
その人は少しだけ顔を上げると
自然に上目遣いになってしまう訳で、その人と目があった。
「大丈夫…です。怪我も…全然…。」
コクリと頷いて答えると良かった…と彼は笑った。