兄と弟。

“声を押し殺してどうしたの?大丈夫だよ、聞こえないから”
「雪」
“快楽は今の雪には必要でしょ。だってあの人には彼女がいる。勝ち目が無いってわかってるくせに往生際が悪いね”
「雪?」
“僕をあの人だと思って抱かれればいいんだよ”
“気づくのが遅すぎたってわけ”
“もう、後には引けないんだ”
「雪!」
「え?」
突然ドアップにあいつの顔が映る。
「なにボーっと突っ立ってんだよ」
「……別に」
フイッと顔を横に向けて野沢を追い越して早歩きする。
「うわ、待てって!俺を置いて行くなよ!」
出遅れた野沢が慌てて追いかけてくる。
そして追いついた、と一言言って俺の隣を歩く。
それを確認してから早歩きをやめて普通に歩き出した。
あれから寝て、次の日風邪はすっかり治っていた。
今は授業も終わり学校の帰り道。
ふと思う。
「お前ホント犬みたい」
「え?なんでそうなる」
「いや、なんか主人に忠実な犬みたいだなと思ったから言った」
すると野沢が笑い出す。
「なにそれ!俺お前の犬なの?」
「俺が主人で何か不満なの」
「俺様だな」
喋りながら歩いていると、遠くから女の声が聞こえた。
「あ、雪さん!」
手を振りながら俺に近づいてくる女。
「お久し振りです!あの、私のこと、覚えてますか?」
「……え、なんでアンタが」
その女は、兄貴となにやら話していた女だった。