「俺彼女ができたんだ」



恥ずかしそうにうなじを触りながら話している。

…………兄。




「だからもう弟はいらない」


「え……。ま、待って」



「行こう」

「うんっ!」


「待てよ!」

兄貴が向けた視線に動けなくなった。


なにもない、感情がない。冷たい視線。




この人は誰だ?



兄貴なのに兄貴ではない兄貴は、女と一緒に遠くへ行ってしまう。



「兄貴――」


早く言わないと。兄貴が行ってしまう。




「待てよ……行かないで。っなんで足が動かないんだよ!くそっ」



声を押し殺して必死にもがく。
黒いねっとりしたものが体を蝕んでくる。



「兄貴!!」

振り返らない兄貴と得体の知れない女。



叫んだ時にはもう…………。