見慣れた自分の部屋に入ると鍵を閉め、勉強机の椅子に座る。


“明子、来てたの?”

“明子”



呼び捨てに呼んでいるし、親しい関係だとすぐに分かる。


あぁ、何故だろう、とても胸が痛い。苦しい。

自然と手が動いて痛くも無い自分の胸の部分のシャツを掴み、もう片方の手で頭のこめかみを抑える。


忘れろ、忘れろ。


俺は何も見てないし聞いてない。

暗示のように、呪文のように。そう自分に言い聞かせているとふと思った。


俺はどうしてしまったんだろう、と。

なぜ俺は兄貴のことばかり考えている?

家族だから?それとも何か思ってることがあるから?


××××。あぁ。


おかしい。何かがおかしいと思ってしまう。

でも、答えは出てくるはずも無かった。


なぜ?



――考えたくなかったからだ。