すぐに表情が変わる。


「あっ、僕達もう戻るね。次移動だから。ほら、兄さん置いて行くよ」


「待てくれアキー!」


そういうと双子は出て行ってしまった。

いちご牛乳の匂いだけがほんのりと残った。


「……これは洗うしかないよな」



カッターのシミを確認して、屋上から近い水道へ向かうことにした。

水道を見つけると持っていた荷物を足元に置き、蛇口を捻る。



脅されるとは思いもしなかった。それもタチの悪い脅し。

ドラマや漫画のような。


自分のことなのにどこか他人事のように感じてしまう。

当たり前だ。実際に脅されるなんてこと、一度もなかったのだから現実味も感じないだろう。



「……ふぅ」


「…………っ……ぐふ」


ある程度落ちたところでハッと気づく。

それは背後で笑いを押し殺している、聞き覚えのある笑い方。


「いつからそこで見ていた野沢」


「ふはっ!やっと気づいた」


水を出していた水道の蛇口をひねると、物珍しそうに俺の隣に立った。


「あれ、どうしたの。怪我?」

「別に」


「ふーん……にしても。珍しいな、雪から甘い匂いがする」


そういうと鼻を近づけて、俺のにおいを嗅ぐ野沢。

そんなににおわない筈なんだけど。



「そんなに臭うか」


「うん。ここくらいまで近づくと」


そういうとハッと気づいたみたいな顔をして野沢は頬を掻いて離れた。


「シャツの下に黒いTシャツ着てるなら脱いで洗った方が良くね?」

「いいだろ別に」