黒い車が目の前に止まり、運転席の窓が開く。
中から顔を出した武ちゃんに近づくと、冷房の冷たい風が流れ出していた。
「待った?」
「ううん、全然っ」
「そか。乗れよ」
うんっ、と元気良く返事して、助手席側まで小走り。
の途中で思い出した!
おしとやか、おしとやか。
今日は、大人の女になるんだった!
危ない危ない。
武ちゃんが煙草を消しながら、助手席に座ったあたしを見つめるから
「ん?」
と首を傾げた。
「ううん」
不敵な笑みを零し
『行くか』
って出発。
何だろう、さっきの笑み。
気になったけれど、ワクワクとドキドキの混ざった胸は、隣で運転する武ちゃんで更にヒートアップ。
逞しい腕とか、運転する横顔とか。
全てがかっこよくて。
見惚れてしまう。
「梓衣ちゃん?」
「へっ?」
梓衣“ちゃん”!?
呼びなれない呼び方に変な声が出てしまったあたし。
「俺、そんなかっこいい?」
なんて、さっきと同じ不敵な笑み。
かっこいいですよ、うん。
だけど……
「自分で言わないで下さーい」
真っ赤になった顔を窓に向け、ぷぅっと膨れる頬。
窓越しに見た武ちゃんは笑ってた。

