「って、俺が居たの知ってたの?」
「うん、トイレの前を通ったのに気づいた」
「そか」
そのまま何も言わない梓衣の膝の上で、静かに目を閉じた。
いつもと違う梓衣に、言える事なんて何もなかった。
タクシーのドアが俺のマンションの前で開き、金を払おうとすると、先に支払ってしまった梓衣。
そして、俺を押し出し、自分も一緒に降りてしまった。
「え? 梓衣!?」
かける声を無視して、勝手に俺の部屋へと向かう。
それを、まだおぼつかない足で追いかけた。
何考えてんだよ!?
さっぱりわかんねーんですけどっ!
「鍵!」
部屋の前で、手を差し出され大人しく鍵を渡すとドアを開けて中に入ってしまった。
「ちょ、ちょっと待て。梓衣!?」
いやいや、これは駄目だろ。
16の高校生を、夜に男の家に入れるとか。
これって犯罪になるんじゃね?

