「た……けちゃん?」
え?
何となく名前を呼ばれた気がして振り返った。
ゆっくり歩く人込の中で、1人流れに逆らって走る女の後姿。
梓衣だ。
「ちょ、わりぃ。離して」
「え? ちょっと武ーーー!?」
隣に居た祥子の腕を払うと、その後姿を追いかけた。
顔を見たわけじゃない。
声だって、梓衣のものだったかなんてわからない。
だけど、梓衣だって、そう思ったんだ。
人込を掻き分け、必死に走るも追いつかなくて。
途中、何で俺追いかけてんの?
なんて冷静に思ったりしたりして。
だけど、ほっとけなんておけなくて。
ただ走った。
人が減った場所でようやく、その後姿に手が届いた。
「梓衣!?」
腕を掴むと、やっと止まったのは、やっぱり梓衣だった。

