【短編】俺の可愛い妹




でも、さっきの女の人達とタツ兄が一緒だった事、知らなかったのかな?

知らなかったとしても、どうして言わなかったんだろう?



『梓衣は俺の可愛い妹』



って。


いつもなら絶対に言ってくれるのに。



走り出した車。

見上げた武ちゃんに聞いてみた。



「どうして、さっき言ってくれなかったの? あたしが居るって」



前を向いた武ちゃんは、困った顔をした。



「……内緒」


へっ?
内緒!?



「何そ……れ」

「内緒」



信号待ちで、人差し指を唇に当てられ笑って誤魔化された。

そんな事をされたら、それ以上聞けないじゃん。


また進み出した車。



「武ちゃん」

「ん?」



前を見て運転したまま返事。



「……武ちゃん」

「どうした?」



チラッと目を向け、また前を見る。



「好き……」



そう言って頬にキスをした。


自分でも大胆だと思う。

だけど、どうしてもわかって欲しくて。
この気持ちが本当だと。
あたしは妹なんかじゃないよ?


離れたあたしは俯き、武ちゃんは運転しままま。
何事もなかったかのような時間が流れた。