「や‥やめろよ!」


僕は耳を塞いだ。

けれど頭の中でするその声は、耳を塞いでも効果なんかなかった。


(あのお守り‥大切にしてね。あれが割れると私消えるんだ‥)


ようやく僕は、その声が祭りで出会った女の子だという事を理解した。


「な‥なんで姿が見えないんだよ‥」


(あの姿でいれたのは、一瞬だけなの‥だから海君に入ったの)



中に入ってもいい?



それは僕の中に入ってもいい?

そういう意味だとこの時になって少しだけ理解できた。


「やだよ!気持ち悪い‥出て行け!」



その言葉に君がどれだけ傷ついたか、今はもう分かるけれど‥


あの頃まだ子供だった僕には分からなかった。


(私ね、もう死ぬかもしれないの‥)


どうして僕に入ったのか‥

君は何者なのか‥


ひどい事を言った僕に、全てを君は話してくれた。


柚は今年の初めに交通事故で植物人間になり、もう意識が戻らないかもしれないと医者から宣告を受けた。


僕とは正反対の性格をした柚。

頭がよく、学校も大好き。

きっと友達も僕と違っていっぱいいただろう。


そんな柚から神様は全てを奪った‥


神様は残酷だ。


神様は意識のない柚の前に現れて、一つだけ希望を与えてくれた。


それが【人の体に入れる力】だった。


いつ意識が戻るかわからない柚にとって、唯一の光だったに違いない。