(ありがとう‥私のために。私ね、海君に出会えて幸せだったよ)


悔しい。


俺は‥こんなに近くにいる人も救う事ができない。


何が医者だ。


ふざけるな!


(私はいなくなるけどね、海君はお医者さんになるんだよ。)


「柚‥何でだよ‥」


(私みたいな子を救うの。海君は優しいから。その力があるから‥)


優しい声だった。


(だから‥約束してほしいの)


俺はもう‥

柚がいなくなる事を受け入れないとダメなのかもしれない‥

こんな柚の声を聞いた事がない。


こんな‥


切ない柚の声を。


(私の事‥忘れないで‥)


柚は泣いている‥


(お願い‥海君)


「忘れるはず‥ないだろ」


もう困らせたくない。


柚を泣かせたくない。


精一杯の笑顔で言った。


「柚は俺の‥人生で一番大切な人だよ」


水晶が、手の平で消えていく。

柚の命が消えていく。



完全に消えてしまう瞬間、俺には確かに見えたんだ。

あの夏祭りで見た、小さな君が目の前に立ってこう言ったのが。


【ありがとう】


それが、俺の見た柚の最期だった。