「うん‥俺、柚のお陰で行きたい高校受験できそうなんだ」


柚のお陰で嫌いだった科目も克服できた。

柚は【海君が努力したからだよ】と言ってくれるが‥そうは思わない。


間違いなく柚のお陰だ。


今まで俺は人に感謝なんてした事がなかった。

そんな気持ちを教えてくれたのは柚だ。


(ねぇ‥海君にお願いがあるんだ。)


柚が何かを頼む事なんて、これまでにない事だった。


「ん?どうした?」


(来年‥私も受験の年なんだ‥だから‥)


そうだ。

柚は俺と同じ年。

来年からは高校生になる年なんだ。


目が覚めないまま6年という月日が経ち、柚は俺の中で生活を共にした。


本当は‥

柚も自分の足で学校に行き、勉強し、友達と遊びたいんだ。


「‥言えよ!何でも言う約束だろ?」


(うん‥)


柚が言いにくいそうにしている顔が頭に浮かんだ。

浮かんだといっても‥

俺の柚の記憶は、あの夏祭りの時の小さな柚のままだ。


(私に‥会いに行ってほしいの。)


急な柚の頼みに戸惑った。

柚に‥会う。


今までだって何度か考えた事はある。
お見舞いに行かなきゃって。


でも‥柚の本当の姿を見るのが怖くて、口には出さなかった。


こんなに元気な柚‥

こんなによく話す明るい柚‥


(私ね‥実はもう長くないかもしれないの。)


「えっ‥」