狐と花

 
 たしかに男の言う通り帰る場所はない

 「本当によろしいのですか?」

 「あぁ、其方がよいのであれば」

 「では、お願いします」

 そう言い頭をさげた

 「よし、そうと決まれば帰るか」

 男は座っていた枝から飛び降りる。

 普通だったら、骨折しそうな高さのはずだ
 
 しかし、それは男が<人>だったらの話

 「!?」

 それを見た女は固まる

 「ん?どうした?」

 それを見た男は聞く

 「えぇっと、その」

 「なんだ」

 男は、顔を覗き込む

 「あなたって、いったい」
 
 おずおずと聞く

 「妖狐だ。気付いてなかったのか?」

 「あ、あたりまえです!」

 「おぉー、てっきり気付いているものだと思っておったわ」

 「分かるわけないじゃないですか、この暗さで」

 「普通は不気味に思うものだとおもうが。夜、しかも森で声をかけられたら」

 「しょ、しょうがないですよ、外へ出たの初めてなんですから••」

 女は、下を向きながら言う

 男はクックッと笑うと
 
 「で、どうする、俺と来るか?」

 「はぃ、帰る場所もないですし」
 
 「わかった、其方名は?俺はウタカタだ」

 下を向く女

 「ん?名は?」

 「名は••ありません」

 「名がないのか」

 「はい」
 
 男は、少し悩んだあと

 「そうか、ではあとで付けてやろう」

 「えっ?」
 
 「名がないと不便だからな」

 「ありがとうございます」

  大分目が慣れたため気づいたが、ウタカタは、顔を紙みたいなもので隠しているようだ

 「さて、行くか」

 ウタカタは、女持ち上げた、いわゆるお姫様抱っこで

 「なんで持ち上げるんですか?」

 「人間の其方に合わせて歩いたら夜が明けてしまう、それにその傷だもうあるけんだろう」

 言われて気付く自分の足や腕に無数の傷があり膝からは、血が流れている。

 意識したら、足や腕に痛みを感じる

 「~ッ!!」

 「着いたら、手当てしてやるから、寝ておれ」

 そう言い、ウタカタは、木々をかわしながら走り出した

 女は、ウタカタの体温と夜風を感じながら眠りについた