けれど、そんな私にだって”夢”がある。

…それは、シンガーソングライターになること。


無理だって分かってる。

誰よりも自分が一番分かってる。

…でも、それ以上に諦めたくないって思える、私の生きがいのような物。


私はふと目線を落とし、再度歌詞を見つめる。


”…本当は、君のことが好き。”


何度見つめても、この歌詞の感情の込め方が分からない。

この曲の主人公は、どんな思いでこの言葉を伝えたのか。


自分が作った歌詞なのに、どうしても分からない。


そうやって私が思考を巡らせる中、不意に窓際から声が聞こえた。


「…なぁ、毎日こんなとこで何してんの?」

低いけれど、まだ声変わりをし終えていないような、少年の声。

私は驚いて声の聞こえた方を見る。

「だ、誰…?てか、なんでそんなとこにいんの?」

私が驚きのあまり質問攻めをすれば、少年は浅くため息を一つついた。

「なぁ、俺は何してんのか聞いてんだけど?」

少し不機嫌そうに表情を歪めた少年は窓から飛び降りて私のベッドに近づく。

「…なんだこれ、歌?

 聞いたことねぇけど…。」

私の持っていた歌詞と音符の書かれたノートを奪い取れば、小さくハミングをし始めた。

…それは、悔しいけれど人の気持ちを和らげるような、まるで天使のような音色に聞こえた。

「…ねぇ、そろそろ答えてくんない?

 貴方は、誰?」

しばらく相手のハミングに聞き惚れたあと、思い出したかのように問いかける。


すると、少年はハミングを止め、めんどくさそうに頭を掻きながら言った。



「…俺の名前は、翼だ。」



…その瞬間、私の中のなにかが激しく反応を示した気がした。