(ナレーター)――緊急速報です。ウイルスが発生しました。なおこのウイルスは感染し死にいたります。再び繰り返しま――

(ナツ)そんなことは知っている。何故なら俺、神木龍斗も感染しているから。生きられるのは残り約一時間。俺が死ぬまで約一時間。
助かる方法はただ一つ。体液感染...つまり誰かにキスすることだ。でも、既に館内に残っているのは恋人である春坂光希だけ。近くで寝てる光希だけ...。でも、うつそうとは思わない。うつしたって、俺だけが生き残っても仕方ない。
―――――――――前文ここまで―――――――――

(翔太)数時間前に事件は起こった。誰かがこの館にウイルスを持ち込んだのが事の始まりだ。最初に感染した人は全身が水のようになり、破裂して亡くなった。そして、その液体を浴びた人も同じように亡くなっていく。一人の人がスマホをいじりながら、感染した人がキスをすると他人にうつり助かるらしいと言った。周りは死にたくないから誰でもいいから、と互いにうつし合い始めた。

(ナツ)俺は光希にうつさせたくないため、光希の腕を引き走った。館の外への出口は封鎖されているために、屋上へ向かって走り続けた。そして、今いる場所は屋上。中からの鍵を壊し、外側からの鍵をかけたので、もう誰も入れない。一安心だ。
しかし、俺たちが走って逃げるときに光希を庇うようにしていたため既に俺は感染してしまっている。
だから、距離をとって座った。気づかれないように、悟られないように。

(ナツ)よっぽど光希は、疲れたらしくここに来てから眠っている。頭でも撫でてやりたいが、感染してはまずいとギュッと拳を握り締め悔しさで涙が出そうなのを歯を食いしばって我慢した。

(ナツ)俺が生きられるのはあと20分。この時点で光希が目を覚ました。いつものように近寄ってこようとする光希にダメだと冷たく言い放った。光希は、泣きそうな様子でその場にたたずんだ。

(ナツ)10分が経過した。俺の命もあと10分程度だ。体が徐々に水っぽくなるのを感じる。汗をかくのに似た感覚で痛くはない。

(翔太)「龍斗!」

(ナツ)ここまで来れば流石に隠すのは無理だ。
「ごめんな?感染したみたいだ。だからもう...抱きしめることも...キスすることもできないや。離れとくな?お前にうつったら守った意味ないし。」
俺は光希に背を向けていつも通りを装った。ほんとは、死にたくない恐怖でいっぱいだったが、光希に心配をかけたくなかった。

(翔太)「龍斗!死んじゃやだ!龍斗が死んだら俺も死ぬ!」
泣き叫んだ。龍斗が居なくなった世界なんて想像できない。

(ナツ)今まで守ってきたのに...もう、触れることもできないのか。悔しいな。
「意味ないじゃん。せっかく守ったのに...。」
光希の方を向き泣きそうなのをこらえて精一杯の笑顔を作ってみせた。光希を安心させるために...。残り時間はあと5分。

(翔太)「龍斗!龍斗!りゅうと!」
泣きながら何度も何度も愛しい人の名前を連呼した。

(ナツ)「危ないから下がってて」
精一杯の笑顔で安心させようとするも、光希は泣き止まない。 俺が生きられるのはあと2分。
俺は、フェンスに足をかけて言う。
「もう、お別れだね。今までありがとう。ほんとに大好きだった。今でも大好きだよ。最後のお願い聞いてくれる?」
走馬灯のように光希との思い出が頭を流れた。

(翔太)「お願い?何?」
俺は泣きながらも頭をあげた。

(ナツ)「最後に...笑って大好きって言って...。」
俺は笑って言った。寂しくならないように...悲しくならないように...。

(翔太)「りゅうと...大...好き...」
涙で、グチャグチャな顔を無理に笑顔を取りつくろって言った。言わなきゃ後悔すると思ったからだ。

(ナツ)この顔を見て俺は安心して死ねそうだ。
「俺も大好きだぞ!」
そして、フェンスから下へ飛び降りた。空中で涙が溢れてきて泣きながら笑った。

(翔太)「龍斗!龍斗!りゅうとぉ!」
俺はすぐにフェンスに駆け寄り叫んだ。

(ナツ)もっと、抱き合いたかったな。もっと一緒にいて、もっと笑って、もっと頭なでたりもっといろんなとこ行ったり...もっと、愛し合いたかったな。
でも、タイムリミットは、来てしまった。地面に触れたと同時に体は破裂した。まるで水風船のように。
寿命が来たらまた会おうね...。光希...。