そして数日後岳大が陽毬の遺品を整理するべく、部屋に足を踏み入れると、部屋には父親に対する日頃の恨み辛（つら）みが書かれた日記が残され、そして壁には『毒を以て毒を制す』と言う言葉が比較的大きな紅色の血文字で書き記されていた。




　　ちなみに『毒を以（もっ）て毒を制す』と言う意味は悪事や悪人を除くのに、他の悪事や悪人を利用することである。だからこの場合岳大が運転をする電車に陽毬が轢（ひ）かれて死んだと言う事は、つまり陽毬は父親である岳大を今世紀最大の方法でもって、奈落の底へと突き落とした事になるのだ。




　　だからおそらく岳大は『実の娘を自らが運転をしていた電車で轢（ひ）いてしまった』と言う重い罪の十字架をこの先ずっと背負いながら生き続ける事しか術（すべ）がないだろう。そして岳大が今更どのような懺悔（ざんげ）の言葉を言おうとも、もはや死んでしまった陽毬の心には決して届く事はない。この時岳大はこの陽毬が最後に書き残した言葉でもって、改めて娘へのストレートな躾（しつけ）がどんなにか陽毬の心を苦しめていたのかを思い知った……。