すなわち陽毬はある日突然特急列車にダイブして、自ら命を絶ってしまったのだ。ちなみにその列車の運転手は他でもない陽毬の実の父親である岳大だった。その時岳大は猛スピードで走っていた特急列車の前方に、いきなり飛び込んできた人に気づき、急遽(きゅうきょ)列車を緊急停止させたが間に合わなかった。




  ほどなくして自らが運転をしていた列車に轢(ひ)かれて即死した人物が、自分の娘の陽毬だった事が解り、岳大は驚愕(きょうがく)し一時半狂乱にさえなった。知らなかったとはいえ岳大は、よりによって自からが運転する電車で自分の娘を轢(ひ)いてしまったのだ。その事実は誰もが想像を絶するほどの、悲劇だった。




   尚、しばらくは放心状態のままの岳大だったが、時は容赦なく岳大を次への行動へと駆り立てた。つまり岳大は哀しみに浸っている余裕などないまま娘のお通夜を執り行い、続いて告別式に臨(のぞ)まざるを得なかったのだ。そしてようやく娘が火葬場で焼かれて骨となって小さな箱に入り、自分の手元に還って来た時になって父親である岳大の悲しみは最高潮に達した。




「陽毬こんなに軽くなってしまって……」
  と陽毬の遺骨を抱えたまま岳大の口からは思わず嗚咽(おえつ)が漏(も)れた。