壁越しのアルカロイド



小学生女子の愛は時に情熱的である。


毎日何回も色んな女子から消しゴムを貸してくれと頼まれ。

ある朝登校してくれば、違うクラスの知らない女子が自分の席に座って机に頬ずりをしている。

キャーキャー言われながら複数の女子にシャー芯を略奪される。

そして極め付けが学校指定のあのハーモニカだった。

もちろんリコーダーも持っているのだが、彼は家に帰ってそれらを無言で洗面台の洗面器に突っ込んだらしい。

潔癖性と他人に対しての刺々しさが出て来たのがだいたいこの時期だ。


そんな。


そんな彼が。


梨奈に対してだけは、少し様子が違うのだ。




「梨奈。」

「ぅはいっ!」

壁越しの声が梨奈に呼び掛ける。

彼はこのように梨奈を下の名前で呼ぶ。



それは女子の中だけで梨奈だけだ。