……
「とにかく俺が言いたいのはね。」
目の前でアイボリーの扉が不機嫌に喋る。
「急に逃亡しない。」
「はいスミマセン。」
「人の話は最後まで聞く。」
「はい大変申し訳ゴザイマセン。」
ピキーンと凍りながら梨奈はまたペコペコと頭を下げた。
頭を下げながらも、心の隅っこで密かに思う。
何振られた相手によりにもよってその当日に怒られてるんだ私…。
どんな時でもシリアスになり切れない自分に泣けてくる。
しかもここはあろうことかトイレである。
浮かばれない。
後で自分の骨を自分で拾おうと密かに決意し、梨奈はまた翔の言葉に耳を傾けた。
「……で?」
「ぇ、はい。」
「涙と鼻水止まったの?」
「え、うん。止まった…。」
本人登場ですっかりおさまった水分は、今や冷や汗の方に回っている。
「じゃあ、出てこれるよね。」
「あ、いや、それは…ちょっと今は顔がヤバくって…。」
というかまともに顔なんて見れない…。
やんわり拒否する梨奈にまた不機嫌を深めて翔が制服のまま腕組みをした。
「ふーん、そう。」
「………。」
「で?」
「……?」
「梨奈って俺の事が好きなの?」
「ぶっっ、ほがぁぁ…っ!!」
な、なんて事聞くんだ…っ!
梨奈は目を白黒させながら倒れそうになる自分の体を必死に支える。
ドSっ!?ドSなのか?!氷結の王子様はそんなスキルもお持ちなのか?!
あんな事を聞く時点で分かっているだろうに、あえて振った相手にわざわざもう一度そんな質問をするなんて…と梨奈は動悸に震えながらアイボリーの扉を見つめた。


