壁越しのアルカロイド



翔がくるりと上半身だけ振り返って。

いつもより少し目を丸くして、言った。



『………………は!?』


………、

梨奈は急激に頭を冷やしながら心の中でゆっくりと呟く。



あーーーー…


やってしまった。



やってしまったやってしまったやってしまった…っ!



思わずお互いに離してしまった手をスッと引っ込めて、梨奈は下を向いたまままくし立てた。


『…だよね!そうだよね!あーもうっ何言ってんだろ私!』

『梨…』

『わーっもう本当恥ずかしいっ!忘れて!今の本当忘れて!わーっヤバい!』

『ちょ、梨奈…』


名前で呼ぶのも、一緒に帰るのも、プレゼントを送るのも、幼馴染みだからだ。

今だって、フラつく幼馴染みを心配して、ただ手を引っ張ってくれていただけなのに。とんだ勘違いだ。


…恥ずかしい。


恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい…っ!!



『キャーもうどうかしてた私!ほんとごめんマジでごめんっ!って事で私お腹空いたから帰るねっ!じゃっっ!』

『梨奈…っ!』




翔の目を見ず、早口でそう謝罪し、




お粗末なトンズラを経て…現在にいたる。