幾多と藤崎の出会いは突然だった。

街中を歩いていた幾多に、声をかけてきたのだ。

「あんた料理人だね。血の臭いが、する。それも、素晴らしい味がする血の臭いだ」

藤崎は目を輝かせながら、幾多に名刺を渡した。

「もし処理に困ったなら、いつでも電話してくれ」





それから、数年後。

幾多は初めて、電話した。

それには、理由があった。


「幾多様!あなたは、美しい人達の為に!」

背中を向けた幾多に叫ぶ女。

「心配するな」

幾多は目を細め、

「俺はぶれないよ。そんなことになったら、死んでいった人々に申し訳ない」

拳を握り締めた。

数分後、ドアが開き、藤崎が出てきた。

「美味しかったよ。格別な味だ。今まで、料理人を食べたことがなかったからねえ〜。勿論、残りは持って帰るよ」

藤崎は、幾多を見つめ、

「心配するな。君は貴重な料理人だ。我慢するよ」

口許に冷笑を浮かべた。

「そうか」

幾多は微笑み、静かに銃口は向けた。

「最後の晩餐は楽しめたようだな」

「お、お前!?」

幾多は、デザートイーグルの引き金を引いた。

鉛の玉は、藤崎の頭を吹き飛ばした。

「い、幾多様!」

躊躇いのない速撃ちで、藤崎を殺した幾多を見て、女は悲鳴に似た声で叫んだ。


「白水が殺した少女の肉体が、一部…無くなっていた。こいつが食べたのさ」

幾多は、銃口を下ろした。

「しかし、こいつが求める味ではなかった。少女は、少年に守られながら、死んだからだ」

そして、崩れ落ちた藤崎の死体に背を向けた。

「世の中の闇…。その闇が、彼らを犯すならば!その闇も消さなければならない」

「幾多様」

幾多は歩きながら、携帯を取りだした。

「やあ〜正流」

幾多は、長谷川に電話し、二つの死体について説明した。

「お前も覚悟した方がいい。この世は、穢れ過ぎている」

幾多は一方的に電話を切ると、携帯を床に叩きつけて壊した。

「こいつに、データはないね」

「はい」

女は頷いた。