まだ暴力団対策法がなかった頃、人知れず殺した人達の処理はどうしていたのだろうか。

よく言われる…コンクリート詰めにして、海に捨てる。

これには、問題がある。人の体は腐れば、ガスが発生するのだ。

だから、内蔵をすべて取り除く必要があるのだ。

山に埋めるのも…どれだけの深さの穴を掘らなければいけないのか…。車運ぶ等、リスクは多い。

だから一番多かったのが、その場で処理できる…熊や鰐に食べさせることだった。

まあ〜真実は、闇の中だ。



偏食者…藤崎正人。

彼が好んで食べるのは、人間だ。

但し、普通の人間に対して食欲はわかない。

恐怖に歪んだ人間、無惨にも殺された…憐れな人間。

彼は絶望、恐怖、怨みがこもった人間しか食べないのだ。

だから、藤崎は人殺しをこう呼ぶ。

料理人と。


「ヒイイ!」

白水莫大は、首筋にナイフが突き刺さったまま、椅子から転げ落ちると、後ずさった。

「いいねえ〜」

藤崎は、にやりと笑った。

「お、お前は…何だ!」

白水は叫んだ。彼は初めて、得体の知れない恐怖を感じでいた。自らに近付いてくる人物は人間ではない。彼を捕食する肉食獣のように見えた。

「く、くそ!」

白水は立ち上がると、本性を露にした。彼は生きる為に、藤崎を殺すことを選択した。

そのまま、藤崎に襲いかかると、信じられない力で、彼の首を締め付けた。

首はすぐにへし折れ、白水は生き残ったはずだった。


「いいねえ〜」

藤崎は、自分の首が軋む音を聞きながら、白水の腕を掴んだ。

「やはり、仕上げは…自分でしないと」

次の瞬間、白水は最後の絶望を感じることになった。





「幾多様」

藤崎と入れ替わり部屋を出た幾多に、女が詰め寄った。

「あ、あんなやつをどうして!」

責めるような悲しい目を向ける女を見て、幾多はフッと笑った。

それから、女の頭を撫でた。

「心配するな。俺は、やくざではない。処理する為の動物は飼わないよ」

幾多は再び振り向くと、腕を組み、ドアがしまった部屋の中を凝視するように見つめた。