日菜と拓海は特に仲が良いわけではない。
挨拶や業務連絡ぐらいでしか会話をしたことがない。
日菜は拓海に対して大人の男性という見方をしていて、それだけで少し苦手な存在だった。
一緒に仕事をしていて何か日菜が嫌がるような行動をしてくることはないが、とにかく年上の男に免疫がないため少し2人きりでいるだけで緊張してしまう。
それに拓海は普通の男よりも確実に容姿がいい。
長身でスタイルが良く、焦げ茶色の少し癖のある髪の毛は拓海の端正な顔立ちによく合っている。
拓海がただのブ男だったらまだバリアは薄かったかもしれないが、見た目が良いとなると遊んでそうという勝手なイメージがついてしまってさらに苦手になった。
だからなるべく関わらないようにしていたのに、何故か拓海の方から話しかけてしかも長話をする前提だ。
(えっ、えっ、なに、え?)
拓海に腕を掴まれた時、日菜はあからさまに嫌な顔をしてしまった。
拓海はそれに気付いたのか気付いていなかったのか・・・。
数口の会話を終えて、日菜は混乱や緊張が入り混じりながら伊東古書店を飛び出した。
