『静香さん。お荷物はおまとめになられましまか?』

そう聞いたのは侍従だ。

『えぇ。この荷物をよろしくお願いするわ。』

この日静香は彼女の父が所有しているプライベートビーチに向かう予定だった。

『ねぇ。お母様。早く泳ぎたいわね。』

静香はそう言って車に乗り込んだ。


海岸に着くと美しい空と透き通るように青い海があった。

静香は麦わら帽子をかぶり白いワンピースをなびかせながら目を輝かせていた。

来ていたのは侍従、母上、父上だった。

侍従がバーベキューの準備をし、母はチェアに寝そべってカクテルを飲んでいた。

静香の父は静香に海の水飛沫を浴びせ微笑んでいた。

『お父様と久しぶりに遊べて嬉しいですわ。』

そう静香が言うと父はたまにはサービスしないとね。なんて言っていた。

家族でバーベキューをいただき夕暮れのころ。家族は別荘へと戻る事にした。

静香は海で少し夕陽を見て行くと両親と別れ砂浜に残った。

夕陽を見ながらウトウトしていた時、ふとした瞬間にかぶっていた麦わら帽子が海へとさらわれたのだ。


ずーっと遠くに。

『まぁ!どうしましょう!』

静香はお気に入りの帽子だったために咄嗟にワンピースのまま海へと入っていった。

帽子は十メートルも先だった。

さっきまで心地よかった海水が静香の体をまるで翻弄するように波打つ。

帽子まで五メートルの時にはワンピースは水を含み重たく脚に絡みついていた。

あと少し・・・!

あと・・・。あと少し・・・!


海水のうねりに巻き込まれながら静香はその時キラリと光るものを見た気がした。

それと同時に身体を貫くような痛みが走った。






これは・・何?






帽子は目と鼻の先にふわふわと浮かび、静香は鈍い痛みと共に海の暗闇に墜ちていった。




私、死ぬの・・・?




静香はもがきながら空を掴む。



苦しいっ・・・!


水に巻き込まれてなにがなんだかわからない。


こんなに簡単に人って死ぬの?


嫌!イヤよ!たすけて・・・


そう考えたところで静香の意識は途絶えたのだった。