『お嬢様、いってらっしゃいませ。』

ありがちなフレーズで麻耶さんに見送られてリムジンに乗り込む。

聖マリア女学院に入学してからは周りも車に乗って学校に来るので途中で降ろしてもらう必要もなくなった。

『お嬢様、いってらっしゃいませ。』
車の扉を運転手が開けて、送り出す。

『いってきます。』
私はそう答えて校門をくぐる。
入学式の桜並木が懐かしい。

『ごきげんよう。林檎さん。』
そう話しかけたのは静香だ。

『ごきげんよう。』

入学式から三ヶ月、学校で交流して段々と深い仲になってきたように思う。

『今日はとくに暑いわね。』
私は暑さに辟易としながら歩いた。

『学校はクーラーが効いているわ。』
静香はおっとりと微笑む。

『そうね。』

ロッカーで靴を履き替え教室に向かう。
廊下は広くヨーロッパの宮殿のようだ。

どうも庶民らしい感覚が抜けない私は圧倒されてしまう。

『『ごきげんよう。』』

静香と私が教室に入り挨拶をする。
あちらこちらから挨拶が返ってきて笑みが零れる。

席について私たちは談笑をする。

『静香、今度海に行きたいわ。』

そう私がいうと静香はキャラメル色の髪をサラつかせて微笑んだ。

『そうねぇ。悪くはないんだけど・・・。』

『なぁに?』

『水に入るのよね・・・?』

『そうね。』

『・・・。』


も、もしかして・・・

『しっ、静香はもしかして・・・。』

そうよ。恥ずかしいわ。と顔を赤らめて静香は言った。

静香はうちの使用人が調べたところ、華族出身の家元のご令嬢だそうだ。

静香は華奢な体つきで瞳がパッチリとしている。スッと通った鼻に、紅色の唇が映える。

スタイルだって細身で綺麗な脚をしていた。

羨ましいくらい・・・。

『あら。何か問題でもおありになって?』

『『優・・・』』

二人揃って声の主をみた。

『まーさーか。こんなに海日和なのに行かないなんておっしゃるの?』

優は少し憤慨しながら静香にいった。

『私も行きたいわ。ね?』

優がはしゃいで私に絡みつく。
キャッキャッとはしゃいで海の話で舞い上がる。

『少し落ち着かれてはいかが?』

そう冷静な声を放ったのは綾美さんだ。
この三ヶ月に至って全く打ち解ける隙のない人だ。

『なぁに〜?まさか水着を着る自信が無いなんて言うんじゃないわよね?』

そうからかい気味に優はじゃれつく。

『何を言っ・・・っと綾美さんが言いかけたところで口を噤んだ。

『やめてよ!』

この静香の声にかき消されたのだ。

三人がびっくりして静香を見た。

『静香・・・。どうしたの?大丈夫。大丈夫よ。』
私は今にも大粒の涙が零れそうな静香の手をとり、『大丈夫』と繰り返す。

『貴方が取り乱すなんて余程の事があったのね。』

そう私がいうと静香は静かに頷いた。