何故かこんな状況でも懐かしいという感覚が蘇る。

僕は無視をして時耶の横を通り過ぎようとした。

でも、僕は引き止められた。

時耶に。

腕を掴み、強引に時耶の前に引き戻された。


「なんだよ」


威嚇するような眼差しで僕は時耶を睨む。

すると時耶はすごく哀しそうな目をした。


「嘘吐いててごめん。涙ちゃんはまだお前を好きだ」


そう言って時耶は僕の掌(てのひら)に何かを乗せた。

そっと開いてみると、僕の掌には小さな指輪が転がっていた。


「・・・、これ・・・」


時耶を見ると時耶はまた哀しそうに笑った。


「ほら、早く行け!もう涙ちゃんの手術は始まってる」

「あぁ、ありがとう」


僕はまた一歩、一歩と歩み始めた。


「それと、本当にごめん」


その声に僕は振り返る。

だけど時耶はすでに僕の方を向いていなかった。

声は明らかに時耶のはずなのに。

僕はその言葉には何も返さず、また前を向きなおした。