どこからどこまで

「買ってあげようか?」

「えっ?」


 薫に突然声をかけられて意味がわからず聞き返せば呆れ顔であたしのお目当てのぬいぐるみを抱えだした。


「足りないんでしょ」


 "お金"、とつけ加えて笑う。

 なんだ、この少女マンガ的展開。

 払ってもらえるのは有り難いが姉としてのプライドが邪魔をする。同時にこの弟が自分の彼女にもこういった甲斐性を見せているのかと思うとなんだかくすぐったい気持ちになってしまった。薫に彼女がいるかどうかは定かではないが。


「いや、そんな……バイトもしてない高校生に払っていただくわけには………ましてやあたし、あなたの姉ですし?」

「弟がお姉ちゃんに日頃の感謝を込めて、っていうのでもだめ?」

「日頃感謝されるようなことしてないよー」

「いや、されてないかもしれないけどさ、」

「そこはちょっと気をつかって"そんなことないよー"とか言うとこじゃないの…」

「っていうか沙苗ちゃん、来月誕生日だし、誕生日プレゼントってことで」

「え、そっか、あたしとうとうラストティーンか」

「そういうことならさ、」


 薫とあたしの会話に混ざることなく聞くに徹していた翔ちゃんが薫からペンギンを取り上げた。


「俺がだすよ」

「え!?いや、悪いよ!だったら薫に…っていうかそこまでしてもらうほどほしくない!ほしくないです!」

「そう?バイトもしてる大学生だし、さなより年上だし、日頃感謝もしてるんだけど」

「えっ、え?」

「それに俺、9月は実習だからさなの誕生日、まともに祝えないし…とりあえず、ってことで」

「そんな…誕生日なんていいのに、」

「さながよくても俺がよくないの」

「…………」


 か、勝てない………。

 何も言い返すことができずにあわあわとするあたしの頭を翔ちゃんが笑いながらポンポンと撫でてくる。


「よかったじゃん、沙苗ちゃん。話まとまったしお土産選んでよ、母さんに頼まれてるから」

「え、うん…あ、翔ちゃん行っちゃった…」


 お礼を言う暇もなくレジへと消えていってしまった翔ちゃんの背中を追うこともできずに薫に手を引っ張られてしまった。

 ぬいぐるみを買ってもらうなんてことは非常に申し訳ないことなのだが、正直助かった。有り難い。

 あたしも美術科のみんなにお土産買わなきゃ。