どこからどこまで

 急に落ちた声のトーンに内心驚きつつ、目はペンギンから離さない。


「何に?」

「さっきから後ろの方でさ、俺と沙苗ちゃんのこと、ヒソヒソ話してる人たちがいるんだけど、」

「え?うん」

「なんかその人たち、俺と沙苗ちゃんがカップルだと思ってるらしくて、」

「……………はい?」


 どうして、そうなるの。

 後ろを振り向きたくても振り向けない。確かに言われてみれば陰口を言っているとき特有のヒソヒソ声が聞こえる。内容まではわからないが。

 何もしてないのになあ。

 理不尽な悪意に胸がざわつく。気持ちが悪い。


「姉弟なのにね」


 先程まではしゃいでいたにもかかわらず、この急な変わりようがおかしかったのか、薫はうっすらと笑いながらそう言った。

 そして何を思ったのか、柵に乗せていたあたしの手の上に自分の手を重ねたのだ。


「えっ、ちょっ、」


 戸惑うあたしの耳に届いたのは、後方からの"リア充爆発しろ!"やら"爆発四散しろ!"だった。

 リア充?いいえ、あたしは非リア充です。そして薫とあたしは姉弟です。


「そんなに喜ばないでよ、手なんて小さい頃よくつないでたでしょ」

「喜んでない!…今の聞こえたでしょ?」

「うん、でももう行ったみたいだから」


 後ろを振り返るとヒソヒソと話す集団はもういなかった。

 代わりというわけではないが、振り返りざまに翔ちゃんと目が合う。


「なんで薫で、翔ちゃんじゃなかったんだろうね」


 翔ちゃんは意味がわからなかったのか一瞬固まってから口を開いた。


「…2人ともパッと見だと姉弟だってわかんないし、なかよさげだったから、かな」

「そっかなあ…なんかあんなこと初めて言われた」

「まあ、いいじゃん。そろそろ行こ」


 話を切った薫は重ねた手を離さずにそのままあたしの手を握って歩き出した。しかも、指と指が絡むような、いわゆる恋人つなぎってやつだ。


「ちょ…っ、薫!」

「えー…だめ?」

「だめっていうか…しょ、翔ちゃんが寂しいかなって」


 ここが地元や大学周辺だったならなんとしてでも手を離すところだったが、現在地は県外だ。薫があまりにも嬉しそうだったせいか無理に手を離すことはできなかった。

 しかし3人で行動しているというのに薫とあたしだけ手をつないでなかよしこよしでは、なんとなく翔ちゃんに申し訳ない気がした。