どこからどこまで






 大きな通路にでると、やはり多いのはサメだった。これだけの数のサメが泳いでいるとかえって恐怖を感じない。例えば、ぽつん、と1匹だけのサメがこの空間にいるだけの方が怖いのかもしれない。


「なんだっけ、この子。ハンマーヘッドなんちゃら」

「ハンマーヘッドシャーク」

「翔ちゃん、さすが!」

「いや、ハンマーヘッドまででてくるくせにシャークがでてこない沙苗ちゃんがおかしい」

「えー」


 変な頭をしたサメは小さな子どもたちに指をさされて笑われていた。あたしも薫に馬鹿にされて、そのハンマーヘッドシャークと立場的には同じだ。変に親近感を覚えてしまう。指はさされていないのだが。

 気をとりなおして、通路をはさんで向かい側にある水槽に向かう。

 あの姿かたちを見れば一瞬で"ああ、あれか!"となるような魚類である。が、名前が思い出せない。

 思わず口にでてしまった言葉は、薫に馬鹿にされても仕方のないものだった。


「だれだっけ?あれ」

「え?」


 翔ちゃんと薫が声をそろえてバッと一斉にあたしの方を見た。

 なんで?なんで"だれ"?なんであたし魚類に対して"だれ"とか言ったの……。人にじゃあるまいし。


「沙苗ちゃん今、"だれだっけ?"って言った?」

「なっ、んにも、言ってないよー?」

「もしかして、この水槽見て言った?」


 翔ちゃんが指さしたのは正にあたしが"だれだっけ?"と言ってしまった誰もが知っている魚類が泳いでいる水槽である。


「だれかって?マンボーさんです」


 律儀に答えてくれるのは構わないのだが、やはりあたしは弟に馬鹿にされている。

 そしてあたしはなんでマンボーの名前も思い出せなかったんだ。ハンマーヘッドシャークはハンマーヘッドまで覚えてたのに。


「マンボーって壁にぶつかると死んじゃったり、近くにいる仲間が死んじゃったショックで死んじゃったりするんだよね」


 薫があたしを馬鹿にする流れから別の方向へと話を持っていこうとしてくれている翔ちゃんの優しさには頭があがらない。が、笑いをこらえているのか心なしか肩が震えている気がする。


「…それ、ツイッターでよくまわってきてた気がする」


 あたしもリツイートした記憶がある。翔ちゃんはそれを見たのだろう。