どこからどこまで

「…ごめん、」


 薫が海面を蹴った。パシャッと控えめな音がした。


「沙苗ちゃんの思うように、すきに解釈して」


 チラリと薫の表情を窺った。無表情で、そこからは何も汲みとれなかった。


「聞かなかったことにしてくれてもいいから」

「……………」


 悔しいな。

 そう思った。

 薫は翔ちゃんのことをおとなと言うが、薫だってあたしよりはおとなだ。あたしは姉なのに。薫はあたしを簡単に見抜いてしまうし、現状に対する理解度もきっと薫の方が高い。

 年下のくせに。悔しい。恥ずかしい。

 思いっきり海面を蹴り上げた。自分にも薫にも海水がかかるくらいに。

 やっぱりあたしって子どもだ。


「うっわ、冷たっ。なんで!怒った?」

「…別に。すきに解釈して」

「怒ってる……」


 ははっ、と軽やかに笑ってみせた。話は終わりとばかりに、あたしはザブザブと膝が海水に浸かるところまで薫から離れて歩いていった。短めの丈のワンピースで幸いだ。


「沙苗ちゃん、」

「ん?」

「もういっこ言いたいことっていうか訊きたいことあるんだけど、」
「いいよ、言って」

「……手、繋いでたよね」

「…………………」


 しまった。ちがう。ここは黙るとこじゃない。

 言葉を選んでいる頃にはもう遅かった。振り返れば薫はにやついていた。


「あんまりにも自然だからさー…つっこみそびれてたんだけど……」

「手なんか昔から繋いでたよ!別に今更、」

「いや、いいんだよ?ただ何があってどうなってああなったのかなあ、って思って」

「何がどうって…あたしが寝起きでよろけたのを見かねて危ないからって翔ちゃんが………」

「…で、何があったの?」

「信じてないでしょ!本当に危ないからって翔ちゃんが手ぇ引いて歩いてくれたってだけだし…!」

「えー」

「そもそもあれ、手ぇつないだうちに入る?触れてたの指先だけだったけど。パーカーぶかぶかだったし」

「いや……、そういう問題じゃないでしょ」