どこからどこまで

「………翔ちゃんって、おとなだよね」

「なに、いきなり」

「なんかさ、しみじみ思っちゃって。いきなり」

「…うん」


 姉弟間での会話のいいところは、脈絡を気にする必要がないところだとあたしは思う。相手が聞いているか否かは、さほど重要なことでもなく、ただ自分が言いたいことを話せればそれで気が済むことの方が多い。

 ただ、たぶん今は違う。そういう空気じゃない。

 薫は何かを伝えようとしている。そんな気がする。


「だから、ちょっとでも沙苗ちゃんが"あれ?"って思うことがあったら、どんどん翔ちゃんに話しちゃっていいと思うんだよね」

「んー…」

「翔ちゃんに話しずらかったら、俺にでもいいんだけど」

「なんの話?」

「なんの話だと思う?」


 ほら、墓穴掘った。

 うん、大丈夫だよ、薫。なんとなく伝わったよ。お姉ちゃん、わかってるよ。

 薫が言いたいことは、翔ちゃんとのことをちゃんと考えろってことなのだと思う。

 わかってるよ。わかってるけど。

 今はせっかく遊びに来てるんだし、難しいことは考えたくない。素直に楽しみたい。逃げだってこともわかっている。それでもあたしひとりで考えたところでどうにもならない。

 だから"話せ"ってことなのか。向き合えってことなのか。

 薫の言うとおり、翔ちゃんはおとなだ。あたしが何を話したってちゃんと聴いてくれる。きっと受け止めてくれる。

 でもさ、薫、一度口にだしちゃったらもう、言っちゃったことは帰ってきてくれないんだよ。なかったことにはできないんだよ。

 取り返しのつかないことになったら、きっとあたしは立ち直れない。

 来月から翔ちゃんは教育実習で、会えなくなる。会えなくなる間に考えるから。ちゃんと考えるから。だから、あんまり急かさないで。