なんだかんだ言っても寝てしまっていた。目が覚めたのはあたしが一番最初で、できるだけ音をたてないようにそっと車からでた。

 寝る前よりも空気が少しだけ暖かくなっているように感じた。光の色もピンクからオレンジに変わっている。

 どっちにしろ、綺麗。

 写真を撮ろうとポケットを探れば何もない。デジカメを取りに車に戻ろうかとも思ったが、2人を起こしてしまったら悪いと諦めた。

 サンダルを脱いで、やってくる波を素足に受けた。海水と砂の感触が気持ちいい。

 海を見渡せばサーフボードを持ったお兄さんたちがちらほらといるのがわかった。

 まだ朝早くて寒いし冷たいのによくやるなあ…若いなあ……。

 自分よりも年上であろう人たちを、そんな風に思いながら眺めていると、後ろからシャッター音が聞こえた。


「早いね」


 薫だ。


「…あれだけ寝れば、」

「だろうね」


 デジカメを手渡されたものの妙に慌ててしまって上手く受け取ることができなかった。勢いよく、振り返りすぎた。

 だって、翔ちゃんかと思って。

 あたしの様子から何か察したのか、薫は言葉を選んでいるかのように黙り込んでいた。なんとなく、わかる。言いたいことがあるのに我慢している顔だ。


「なに?」


 促せば必ず話す。言いたくないことなら、そもそも弟はこんなに露骨に顔にだしたりはしない。寧ろ言いたがっているときによく見る表情だ。昔から、そうだとわかっていてせっつくのがあたしの役目だった。


「いや…沙苗ちゃんのじゃないなって、それ」

「あ、」


 薫の言ゔそれ゙はあたしが今着ているパーカーで、あたしの物ではない。翔ちゃんのものだ。借りて着ていたことを今の今まで忘れていた。


「うん、翔ちゃんが貸してくれてさ」

「……通りで、ぶかぶかだと思った」

「………………」


 "言いたいこと、そんなことじゃないでしょ"

 喉まででかけて、やめた。墓穴を掘るだけなような気がした。きっと薫には、全部見抜かれている。

 でかける前はハイカットのスニーカーだった薫の靴が、クロックスに変わっている。クロックスも脱ぎ捨てた素足が、バシャバシャと無駄に音をたててあたしの隣に並んだ。