撮った写真のデータは見返さなかった。海からアパートに帰ってから見よう、とそう決めた。

 薫のあくびを合図に、車に戻って寝ることになった。近くにある水族館が開館するまで、あと何時間かある。

 助手席に座っていたあたしは、薫に後部座席をすすめられて素直に従った。

 薫があたしの体にぶつかるかぶつからないかくらいの角度で助手席を倒して眠る一方で、翔ちゃんはほんの少しだけ運転席を傾けただけだった。

 "もっと倒せばいいのに"と声をかけた薫に対して、翔ちゃんは"大丈夫"と眠そうな声で短く応えていた。

 あたしは何も言えなかった。

 あたしに気を遣ってくれてるんだろうな。

 "どこでも寝られるのが特技"だ、と言っていたのをチラリと思い出した。

 こんな密室に男女で、という状況が一般的にはまずいことだということはさすがにわかっているつもりだ。

 でも、翔ちゃんと薫だしなあ。

 何も起こりようがない。仮に今この状況下で薫がいなかったとしても。

 …何、考えてるんだろ。あたし。自意識過剰すぎる。

 海に着くまでにも寝ていたせいか、さほど眠くはなかった。目だけは閉じておくことにする。

 聞こえてきた寝息は2人分。

 もしも翔ちゃんが少しでもあたしを意識してしまって寝られない、なんてことがあったら申し訳ないと思っていたが杞憂もいいところだった。

 そんな少女漫画みたいなことが、ありえるはずもなかった。自分が考えていたことのあまりの恥ずかしさに、余計に寝られなくなってしまった。