あのあと、デジカメを車の中に置いてきてしまったことに気づいたあたしは、車の鍵を翔ちゃんに借りて車に戻った。

 当然、つないでいた手も離れた。

 ホッとしたような、名残惜しいような、なんとも言い難い気持ちだった。

 どっちにしろ薫に冷やかされて、すぐにはなしてただろうけど…。

 デジカメを取って海の方へと戻ったあと、わけのわからない気持ちに見ないふりしてシャッターをきった。海と空と太陽と、翔ちゃんと薫。

 翔ちゃんは昔から写真を撮られることがあまりすきではない。あたしも薫も知っている。そのため後ろ姿だけを撮っていた。文句を言われればすぐにやめるつもりでいた。

 そうしているうちにピースをし始めた薫に"自然な写真が撮りたいから"と文句を言っていると後ろからカメラを奪われてしまった。翔ちゃんだ。

 "さながずっと撮ってたら、さなが写んないでしょ"と。

 文句を言われないことをいいことに、後ろ姿とはいえ写真を撮り続けたあたしへのささやかな仕返しだろうか。仕方なく、素直にカメラを渡した。手持ち無沙汰になったあたしはボーッと景色を眺めたり、サンダルを脱いでパシャパシャと海を蹴ったりした。

 そうこうしているうちに、いつの間にかカメラが薫の手に渡っていた。気づいたのが遅すぎた。データを再生するのが恐ろしい。

 なんとかカメラを取り返したあたしは、1回だけ、薫にも翔ちゃんにもバレないようにシャッターをきった。

 穏やかな表情で海を眺める、翔ちゃんの横顔。