インターホンが鳴った。

 だめだ、きりかえないと。

 ゆで終わったそばを水にさらす。ザルで水をきってから玄関へ向かった。


「おかえり。早かったね」

「ただいまー」


 声をそろえて言ういとこたちに、苦笑した。相変わらず仲がいい。

 薫を泊めるのを断ればよかった、なんて考えは頭から消えていた。沙苗も薫も、可愛い俺のいとこだ。


「俺、手伝うよ」


 薫が買ってきたものを俺に渡しながら申し出た。ありがたいがさほど時間もかからない、断ろうと口を開きかけると沙苗が遮った。


「え~、だったらあたしが手伝うよ~」

「えー、沙苗ちゃんが?」

「なんで"えー"なの。薫は一応お客さんなんだからいいんだよ」

「って言ってもさ、おじゃましてるお礼くらいさせてよ。ね、翔ちゃん」

「すぐできるから手伝いは要りません」

「え~?」


 2人の可愛いいとこの頭に手を乗せる。またもや声をぴったり合わせた姉弟に笑ってしまった。


「じゃあ洗いものは俺にさせてよね」


 そう言いながらしぶしぶ居間に向かった薫に反して沙苗は台所に留まった。


「どうした?」


 何か言いたいことでもあるのだろうと言葉を待つ。が、ジッとこちらを見つめるばかりで口を開く気配はない。


「沙苗?」


 不思議に思って苦笑混じりに呼びかけると、ようやく"翔ちゃん、"と俺の名前を呼んだ。


「ん?」

「体調悪いとか、ない?平気?」


 心配そうに見つめてくる沙苗を見て、ヒヤリとした。やはりあのとき反応が遅れたのはまずかった。沙苗が腕を揺すってくる前、沙苗が言っていたことに俺はリアクションをとれなかった。顔にでていたのかもしれない。

 自分の気持ちには感づかれはしないにしても、心配をかけてしまうのは心苦しい。


「大丈夫だよ」


 頭に手を置いて、ポンポンと軽く叩く。


 余計な心配をかけて申し訳なく思う反面自分のことを気にかけてくれることが嬉しくて、どうしようもない。


「ほんとに?」

「うん。ありがとう」

「そっか……じゃあできたら呼んでね、運ぶから」

「わかった」


 "久しぶりだなー、とろろそば"と弾んだ声で居間に向かう沙苗に薫が何か言い、沙苗が何か言い返している。

 賑やかになった自分の部屋で、2人が帰ってくる前よりも、気持ちが軽くなったような気がした。