足りないものがカゴの中にそろったところで会計を済ませる。

 帰り道でも、やはり薫は荷物をあたしに持たせようとはしなかった。率先してビニール袋を手に取っていた。


「あー、エコバック持ってくればよかったかなー」

「今更でしょ」


 ねこっけが風に揺れた。

 昔と変わらないようでいて、事実、変化は目の前にある。昔からしっかりとした子ではあったが、こんな風に気を遣われたことはない。そもそも実家をでる前は、こんな風に2人で買いだしにでかけることさえなかったのだ。


「話戻すけどさ、彼氏できたらちゃんと言ってよね」

「だからー、要らないんだってば。彼氏なんて!」

「それで、ちゃんと俺に紹介して」

「…人の話、聞いてるー?」


 ははっ、と軽やかに笑った。

 なぜそうも彼氏というものにこだわるのか、あたしにはわからない。彼氏がいることがステータス!という風潮は高校生までのはずだ。すきな人でもいない限り、あたしが彼氏なんてものに憧れを抱くことはないだろう。目の前のことだけで手一杯なのだから。

 一瞬、翔ちゃんの顔が浮かんだ。

 条件反射のようにそれを振り払って口を開いた。


「さっきからそういう話ばっかりふるけど薫は今いるのー?彼女。いるんなら紹介してよー」

「いないよ」

「うそ」

「嘘じゃないよ」


 苦笑混じりにきっぱりと、そう言った。

 気づけば薫は車道側を歩いていた。

 そんな気ぃ遣わなくたっていいのに。


「俺も、たぶん翔ちゃんといっしょ」


 寂しそうな、困ったような、そんな顔をして笑う。

 この子はいつの間にこんな顔をして笑うようになったのだろう。自分の弟だというのに、知らない男の子を見ているようだった。


「彼女なんて、つくる気もないよ。結婚も沙苗ちゃんより先にはしない」

「結婚って…飛躍したな~」

「そう遠い話でもないでしょ。翔ちゃんだって、そう思ってると思う」

「…"そう"ってどう?」

「翔ちゃんも、沙苗ちゃんが結婚するまではしないだろうな、って」

「なんで?」


 まどろっこしい。少しイライラして声を荒げると、少し間を置いて、薫は眉を下げてやはり笑った。

 なんなのだろう、この態度の差は。どっちが上だかわからない。薫は弟で、あたしは姉だというのに。


「なんでだろうね」


 翔ちゃんの部屋のインターホンを鳴らしながら、弟はとぼけた。