金曜日の午後。

 昼食はテキトーに済ませ、あたしは部屋を片づけていた。

 テストは全て終わった(色々な意味で)。明日から正真正銘、夏休みだ。

 大学生の夏休みは約2ヶ月あるということを知ったのはつい最近、3日程前のことだ。2ヶ月もあるのか!と正直浮かれている。まあ、今月の末は集中講義があるため少しだけ忙しくはなるのだが。


「こんなもんかな…」


 部屋が片付く頃には午後の3時をまわっていた。授業で描いた作品やスケッチブック、クロッキー帳などを収納するのに手こずってしまった。パネルもB2にもなるとなかなか大きくて置く場所に困る。

 今日は薫が泊まりにくる日だ。とは言っても夜に寝る場所は翔ちゃんのところになるわけなのだが、片付けは念のため。

 薫は、着くのは4時頃になると言っていた。まだ1時間ほど時間がある。


「ホットケーキでも焼こうかなあ…」


 そもそもホットケーキミックスがあるのかどうかさえ怪しい。台所をあさってみたところ、必要なものは一応そろっていたため、いつぶりかはわからないが久しぶりに台所に立った。

 上機嫌でホットケーキミックスとその他の材料をボールの中でかき混ぜていると、インターホンが鳴った。

 え、誰。

 来訪者は常々少ないため限られている。宗教勧誘か、新聞勧誘か、宅配関連か、さこねぇか、翔ちゃんか。

 大学の友人の中であたしの家を知っているのは、さこねぇだけだ。大学に近いとたまり場になってしまうから、と家の場所をあまり人に教えないようにさこねぇから言われたことがある。

 翔ちゃんはあたしの部屋にはめったに訪ねてこない。もっぱらあたしが翔ちゃんの部屋に行くことの方が多いからだ。

 勧誘系だったら嫌だなあ、と思いながらドアスコープを覗く。

 翔ちゃんだった。


「翔ちゃん?どうしたの?」


 ドアを開けて開口一番にそう問う。

 翔ちゃんは少し焦っているようで、困ったような顔をしていた。


「菜奈さん、来るって」

「…………えっ?」


 菜奈とは誰か。あたしの母である。


「なんで?あたし何も聞いてないけど…もしかしてお母さんも泊まるの?」


 別に嫌なわけではないが急には困る。そもそもなぜ娘のあたしではなく甥っ子の翔ちゃんが知っているのだろうか。