「え、そんな笑う?えーと、あれだよ、東北の。サメがいっぱいいる水族館があるとこの」

「サメ?……あぁ、なんとなくわかったかも」

「ほんと?」

「うん。たぶん車で行ける距離。実家から車もってくるよ」

「えー、いいよー、電車で。大変だもん」

「全然。たまには運転しないと」


 翔ちゃんはいわゆるペーパードライバーで、長期休みに実家に帰れるときくらいしか運転しないらしい。

 教習所に通ってすらいないあたしにとっては、ペーパーでも羨ましく感じる。


「でも…」

「"悪いから"とか言うの、ナシね。運転すきだし。薫には言ってある?」

「あ、海だってことはまだだった。予定空けといて~、とは言ってあるけど」

「泳ぐの?」

「えっ!?まさか!朝日見たいだけだよ~!」

「そう?まあ、薫に連絡しといて」

「はーい…」


 水着なんて持ってないし、翔ちゃんもあたしも薫も、遺伝なのか元々肌が白くて日焼けには弱い。泳いだりなんかしたら肌が真っ赤になって痛い思いをするだけだ。

 返事をしながら空になったメロンシャーベットの容器とスプーンを台所へ持って行く。何に使うわけでもないが、メロンシャーベットの容器は洗ってとっておくことにした。

 懐かしいし、可愛いしね。

 手を拭いて戻ってきた頃には、翔ちゃんは寝息をたてていた。

 冷房の風力を少し下げ、タオルケットをかける。

 やっぱり、眠かったんだな。

 いつもより少しだけテンションが高ったらように感じた翔ちゃんの髪に、そっと触れてみる。薫と同じ、ねこっけだ。しっかりとした髪質のあたしとは違う、細い髪。

 最近黒くなった短い髪にふわふわと触れる。細くて、柔らかくて、羨ましい。

 可愛い寝顔だなあ、と思いながら頭を撫でた。

 満足して荷物をトートバッグに詰め込んで電気を消す。

 外にでて、忘れずに持ってきた鍵で施錠をした。

 眠気は未だに感じない。兎に角、ドイツ語をなんとかしなくては。

 海、行けるの楽しみだなあ。

 自分の部屋の鍵を開けながら、いつの間にか口角があがっていた。