あたしの悪い癖は、思ったことを無意識に口にしてしまうことだ。

 そして、自分の発言を振り返るのが遅いのだ。非常に。3日後、1週間後、もしくはそれ以上。思い返すのは大抵、シャワーを浴びているとき。ふとした拍子に思い出す。


"なんか新婚さんみたいだね"


 穴があったら、いっそ埋まりたいと思った。正しくは、"穴があったら入りたい"。わかっている。敢えて埋まりたい。

 なんてずうずうしいことを言ったんだろう、と。

 あたしと翔ちゃんは、そういった関係ではないのに。あたしは翔ちゃんの彼女ではないのに。あたしは翔ちゃんのいとこなのに。


"自分が彼女になった場合も想像した?"


 さこねぇのセリフを、急に思い出した。

 考えなかったわけじゃない。翔ちゃんと一緒にいると、安心する。

 そうだ、家族みたいに。一緒にいて、気が楽で。

 考えなかったわけじゃない。ただ、考えが"恋人"という地点まで、及ばないのだ。

 翔ちゃんはきっと、あたしのことを妹のように思ってるんだ。あたしだって、翔ちゃんのことをお兄ちゃんみたいに思ってるんだから。同じだ。

 "新婚さんみたい"なんて、もう言ったらだめだ。あたしと翔ちゃんの仲を、そんな風にほのめかすことは、言ったらだめだ。

 翔ちゃんは、すき。でも、そんなことを言いだしたら薫のことだってすきだし、きっとそういう"すき"なんだ。

 今の状況は、さこねぇの言ってた通り、"変"。翔ちゃんに彼女がいないのは、あたしのせいだ。

 翔ちゃんに訊こう、"彼女つくらないの?"って。

 訊いてしまったら、あたしは身の振り方を考えなければならない。

 あぁ、もう。性に合わないな、こういうことをグルグルと考えるのは。

 今月の頭はテスト期間。単位がとれなきゃ再履修。再履修だけはごめんだ。

 そしてそして、テストが終われば夏休みが始まる。